私たちが“オールドボトル”に注目する理由

私たちが“オールドボトル”に注目する理由

〇現代のウイスキーでは得られない、素材・製法・時間が育んだ香味が"オールドボトル"にはあります。

私たちは、現在も高品質な現行ウイスキーを楽しみながらも、過去に瓶詰めされたウイスキー、いわゆる「オールドボトル」に特別な魅力を感じています。
それは単なるノスタルジーではなく、原料の変化・伝統製法の消失・熟成環境・時代背景の違いなどが積み重なって生まれる、現代にはない香味の“個性”にあると考えています。


1. 使用されていた大麦の品種が異なる

〇 1968〜1980年代に主流だった「ゴールデン・プロミス」は、香味に優れたが収率が低く、現在では希少品となりました。

ウイスキーの風味を大きく左右する原料・大麦の品種は、時代とともに大きく変わってきました。特に1960年代後半から1980年代にかけては、「ゴールデン・プロミス」という品種がスコッチウイスキーに多用されていたことで知られています。

この大麦は発酵効率は高くないものの、香りやコクが豊かで、味に深みを与えるとして評価されていました。しかし、1980年代以降は大量生産・高収率が重視されるようになり、アルコール収量の高い品種(例:トライアンフ、カマルグ、オプティックなど)へと移行。これにより、当時特有の味わいが再現されにくくなったと言われています。

時期

主な品種

アルコール収率(LPA/トン)

~19世紀

Bere

約260

~1900年代

Chevalier

約300

~1950年代

Spratt Archer / Plumage Archer

360~370

1950~1968年頃

Zephyr

370~380

1968~1980年頃

Golden Promise

385~395

1980~1985年頃

Triumph

395~405

1985~1990年頃

Camargue

405~410

1990~2000年頃

Chariot

410~420

2000年以降

Optic

410~420

 


2. 職人によるフロアモルティングの減少

職人技によって仕上げられる麦芽は、均一さよりも“味わいの深さ”を優先していたとも言われます。

かつて多くの蒸溜所で行われていた「フロアモルティング」は、麦芽造りの伝統的な手法です。湿度・温度を保ちつつ、職人が手作業で麦を攪拌することで、香り豊かな発芽を促していました。

この工程は「モルトマン」と呼ばれる専門職が担い、労力と技術が要求されるため、現代では機械化されたモルティングに置き換えられつつあります。
しかし、この製法が生み出す微妙な違いこそが、オールドボトル特有の風味を支えていたのではないかという見方もあります。

なお、現在もフロアモルティングを続けている数少ない蒸溜所として、スプリングバンク、キルホーマン、ハイランドパークなどが知られています。


3. 長期間使われた樽の深み 

かつては“本物のシェリー樽”が豊富に流通し、その深みがウイスキーに厚みを加えていたと考えられています。

熟成に用いる樽も、風味に大きな影響を与えます。とくにオールドボトルに使われていた熟成樽は、長期間使用されたシェリーカスク(オロロソやペドロヒメネス等)であることが多く、果実やナッツのような香味の複雑さが引き出されていました。

現代では、供給の事情から「シーズニングされた樽」や「ワインを通していない新品樽」が使われるケースも多く、同じ“シェリー樽”と表記されていても、中身は大きく異なることがあります。

また、樽の素材や焼き方(チャー)、乾燥の仕方なども昔とは違っており、これがオールドボトル特有の芳醇な香りや厚みに寄与しているとされています。


4. 熟成年数表示の意味が変わった

過去の「12年表記」は、今よりも長熟な原酒が多く含まれていたと見られています。

「12年」と表記されていても、それは“最低熟成年数”を示すに過ぎません。現代のウイスキーでは12年ギリギリの原酒をブレンドするケースもありますが、1970〜1980年代のボトルでは、12年以上の長熟原酒が豊富に使われていたとする見解もあります。

また、18年や30年などの熟成年数が注目されがちですが、バランスや香味の複雑さにおいては12~18年が最適とも言われます。つまり、同じ年数表記でも「当時の12年」と「現代の12年」は中身の意味が異なる可能性があるということです。


5. 瓶内での“経年変化”

〇密閉された瓶内でも、ごくわずかに香味がまろやかに変化するという説があります。

アルコール度数40%以上で瓶詰されたウイスキーは、一般に熟成が止まるとされます。しかし、数十年の時間を経たオールドボトルは、瓶内で成分が穏やかに反応し、香りの角が取れて丸くなるとも言われています。

新たな成分が生成されるわけではありませんが、「香味が統一される」「余韻が柔らかくなる」などの効果が感じられるケースがあるため、**瓶詰後の“熟成感”**を支持する声も少なくありません。


6. 時代の香り、文化の記憶

〇香りや味だけでなく、当時の時代背景や感性までが封じ込められた“文化的体験”としての魅力があります。

「感性の領域」という表現があるように、ウイスキーは単なる飲み物を超えた文化体験であると考える愛好家も多く存在します。
オールドボトルには、その時代にしかなかった空気感や技術、ラベルや瓶のデザイン、美学が詰まっており、それを味わうこと自体が豊かな体験となります。

現行品と違って、“どこか物足りなさがある香り”や“奥に潜む熟成香”など、言語化しにくい“違い”を感じるのも、オールドボトルの大きな魅力です。


7. まとめ:オールドボトルは「過去の再発見」であり「今しかできない体験」

〇再現が困難な“当時ならでは”の風味や価値が、今こそ楽しむべき理由だと考えます。

私たちは、「どちらが優れているか」ではなく、「どちらにも楽しむ価値がある」と捉えています。
現代の技術で造られた緻密なウイスキーも素晴らしい一方、オールドボトルには過去の素材・手法・文化を閉じ込めた味わいがあり、“時間を飲む”という贅沢な体験が得られるのです。

また、市場に出回る本数が年々減っていることからも、「今」この体験ができること自体が貴重なのではないでしょうか。

これが、私たちがオールドボトルにこだわる理由です。

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